第6章 いつこの備忘録。ロト王子

1830年生まれのロト王子「カメハメハ一世の孫」と、1831年生まれのバーニス・パウアヒ。「カメハメハ1世のひ孫」
同じ時代に生まれた2人は、王立学校(ロイヤル・スクール)でともに学び、11歳の時に王室の定めによって正式に婚約しました。
ハワイ王室最高位の血筋を引き、教養にあふれた幼馴染。
この2人が、やがてハワイ王国を導いていくのだろう。誰もがそう思ったことでしょう。

1849年、18歳になったロト王子は、王国の外交と見聞のために弟(後のカメハメハ4世)とともに欧米視察へと旅立ちます。
イギリス、フランス宮廷では、一国の王子としてナポレオン3世やヴィクトリア女王らから手厚い歓迎を受けます。

しかし、次に訪れる国で、彼らは屈辱的な出来事が起こります。
南北戦争直前の奴隷制が存在するアメリカ。
乗車していた列車の一等車から「肌が褐色(ポリネシア系)だから」という理由で黒人奴隷扱いされ、追い出されそうになりました。
ホテルでも劇場でも。
人種隔離の壁に直面します。
ヨーロッパでは一国の王族もとして迎えられた彼ら。
アメリカでは肌の色で判断される。
「白か、それ以外(黒人奴隷)か」。
弟のアレキサンダーリホリホは当時の日記にこう書き残しています。
「イギリスでもフランスでもこんな扱いを受けたことはない。アメリカに来て犬のように扱われた。アメリカ人には心底失望した」

多感な18〜19歳のロト王子にとって
この経験がどれほどの衝撃だったのでしょうか。
ハワイ王族としての誇りを傷つけられたその痛みは。。

そして、ようやくハワイへ帰国したロト王子を待っていたのは、さらに大きな出来事でした。

彼がハワイを留守にしている間に、婚約者パウアヒはアメリカ人実業家チャールズ・ビショップ(28歳)と急接近し、駆け落ち同然で結婚していたのです。
王室や養父母の激しい反対を押し切り、自らの意志でアメリカ人の夫を選んだパウアヒ(当時18歳)。
ロトとの婚約は、正式に破棄されます。
奴隷制のアメリカで肌の色による差別を受け、帰国した途端、愛する婚約者はアメリカ人を選び結婚した二重の悲劇。

ビショップとパウアヒが出会ったのは1846〜1847年頃ですが、二人が急接近して結婚を決意した1849〜1850年は、ロト王子が欧米外遊でハワイを近く不在にしていた時期と同じ。

パウアヒの駆け落ち婚ののち、ロト王子はハワイ王国の政務や宣教師たちがいるHonoluluの喧騒から距離をおくようになります。
馬車で1時間ほど離れたMoanaluaの離宮へ。
20歳から32歳で即位するまでの約13年間。
彼はこの地で過ごしました。

この頃のハワイはキリスト教宣教師たちの強い影響下にあり、ハワイ古来の伝統のHulaやOli(詠唱)は「不道徳な邪教の踊り」として公の場から厳しく禁じられていました。

そんな時代、ロト王子は密かにダンサーやチャンターをMoanaluaの離宮に招き、ルアウ(宴)を開いて彼らを庇護しました。

それは文化保全という政治的な意図もあったでしょう。

幼い頃からの婚約者はアメリカ人と結婚。
宣教師や西欧諸国から侵略される母国の文化。
王族としての孤独。
ハワイ古来の打楽器のリズム。
神話や土地、王族を讃えるチャントとフラに浸す事で彼はハワイ人としての誇りを見つめ直していたのでしょうか。

現在、「フラを復活させたのはカラカウア王」と言われています。
しかし、「フラが消えない様に守ったのはロト王子」だったのではないでしょうか。

1863年。
32歳で「カメハメハ5世」として即位した彼は親米派の体制を拒んでハワイ人の権利を強めます。
1871年。
彼は、心から尊敬する祖父カメハメハ1世の偉業を讃える日として、キングカメハメハデーを祝日とします。
ロトは12月11日生まれ。
彼は自分の誕生日からちょうど半年離れた、1年の中で最も対極にある「6月11日」を祝日に定めた言われています。

今も毎年6月11日はキングカメハメハデーが
盛大に行われています。

カメハメハ像には長い長いレイがかけられ、華やかなパレードでカメハメハ大王の功績を讃えています。
オアフにあるこのカメハメハ像はAliʻiōlani
は、最初はカメハメハ5世(ロト王子)の王宮として計画された設計をもとにカメハメハ5世が政府庁舎として建設を決めました。

1883年にカメハメハ一世の銅像が設置されました。

しかし、ロト王子の、カメハメハ5世の銅像はハワイのどこにもありません。
フラが消えないように静かに守ったカメハメハ5世。

いつかハワイのどこかに彼の功績を讃える銅像が立つ日が来るのを願っています。

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